3月21日の日経産業新聞onlineのツイートで興味深い記事を見つけた。
「この人離職しそう」 AIが分析 フロンテオとソラスト
データ解析のフロンテオは医療事務を受託するソラストに4月下旬、新入社員の面談分析システムを納める。1年間で4割が離職する事態を改めるため、面談シートから上司には気づきにくい気持ちのニュアンスまでつかむ特徴を持たせた。面談の負担軽減もふくめ、ソラスト全体へのプラス効果が見込める。
[フロンティアビジネス面]
最大表示にしても日経産業のくせに3行じゃなくて4行だ。
『「この人離職しそう」 AIが分析』の概要
結局www.nikkei.comに全文は掲載されていないのでいろいろ調べてみると、連名のプレスリリース記事があった。3月9日発だった。
ソラストは、約50 年にわたり医療機関での診療報酬請求や受付などの医療事務関連サービスを提供しており、 2 万人以上の社員が従事しています。新入社員は年間で約 5,000 人にもおよび、年齢、経験、バックグラウン ド等において、多様な社員が日々新たに業務に就いています。そのために、サービスの中核をなす「人」への取 り組みを重視し、成長戦略の1 つとして位置付けています。これまでも新入社員へのサポートに関しては、1 年 間で 7 回以上の面談を行うなど、社員の声を細やかに聞く仕組みを作ってきました。一方で面談の対象者が全 国で月間延べ 2,000 人にも及ぶため、面談記録の中から不安や不満、心配ごとを抱える人を早期に発見し、適 切なフォローを実施する仕組みづくりを行うことが課題となっていました。
■KIBIT について
人工知能「KIBIT」は人工知能関連技術のLandscaping と行動情報科学を組み合わせ、FRONTEO が独自開発 した日本発の人工知能エンジンで、人間の心の「機微」(KIBI)と、情報量の単位である「ビット」(BIT)を組 2/2 Press Release み合わせ、「人間の機微を理解する人工知能」を意味しています。テキストから文章の意味を読み取り、人の暗 黙知や感覚を学ぶことで、人に代わって、判断や情報の選び方を再現することができます。
おお、こんなところにもいらすとやさんが。右のイラストは「カウンセラーのイラスト」(公開日:2013/07/23)で、いらすとやさんにあった。他はうまく見つけられない。発注したイラストか?
なぜ話題にならなかった?
いやいや、いらすとやの話ではなかった。フロンテオはこのプレスリリースで株価を上げたが、
他に報道が出ていないこともあり、3月21日終了時では少し下げている。上記記事はやはり3月9日のもの。一方ソラストは、日経産業が記事にした3月21日は株価を上げた。
プレスリリース出す日や曜日や時間帯、出し方も話題になるかどうかに影響する。
やっぱり、(3月9日の)木曜日はクリック率が低かった。プレスリリース数も木曜日が多いが。
しかし、3月9日から3月21日まで日刊の日経産業に拾われるまで、なんでどこも記事にしなかったんだろう。
それはともかく、
最初に紹介したPDBマーケティングでは、クリック率を調べて「リリースのタイトルは10文字短くなるごとに約5%クリック数が上がる」「画像ありリリースは画像なしに比べて平均12%クリック率が上がる」と解説している記事もありますので、ご参考に。
リリースはどの曜日のどの時間帯に出すのが効果的か 調査データ3種 | 編集長ブログ―安田英久 | Web担当者Forum
連名にしたせいでタイトルの中で本題に入るまで長い。47文字。
『ソラスト、FRONTEO の人工知能 KIBIT を活用し、新入社員の離職を防ぐ取り組みを開始』
日経産業でオレが目にして見ようと思ったのはこのタイトル。27文字。20文字少ない。
『「この人離職しそう」 AIが分析 フロンテオとソラスト』
この手のプレスリリースを拾って記事にする記者に必要な情報は、「離職」「人工知能(あるいはAI)」+社名、状況によるが製品/サービス名というところ。日経産業が付けたタイトルくらいにスリムにしていれば、3月9日時点で拾ってもらえたのではないか。
そもそもAIが必要なの?
日経産業に書かれている「1年間で4割が離職」は数字が大きい。この数字、生命保険の営業職員の離職率に近い。少し参照したブログも古い(2010-04-17)し、元データも古いが。
(ここで、q:「離職率」、A:年末始の登録者数、B:年度末の登録者数、D:廃止者数)
とするものです。(二見隆氏「生命保険数学(上巻)」p97(3.3.3)式に準じて作成)
これに当てはめると
生命保険の営業職員(理由があって社員とは呼ばない)は、元々大量雇用大量離職のモデル。近年は「辞めてもらいたくない」と言っているが、一部の優秀な営業職員を除くと、親戚・知人といった「身内」に売って、身内以上に販売先を拡充できない営業職員はノルマを満たせずに辞めていくことになる。
ソラストの場合、医療事務などを主な事業としている。
見ていると医療・介護・保育と医療・福祉の教育サービスという形。
医療事務には離職率が高いイメージが無かったが、ググってみると離職率が高い模様。病院の事務の場合、離職率が高い職場と定着率が高い職場で大きく分かれるようだ。もちろん、介護や保育の離職率の高さは一般に知られる通り。
社員クチコミをvorkersで調べてみた。
5段階評価で総合評価2.68、特に待遇面の満足度は2.0と低い。業界内ランキングを見ると明確である。
総合評価は265社中261位、待遇面は265社中259位、社員の士気265社中253位、20代成長環境265社中262位、人材の長期育成265社中260位、人事評価の適正感265社中262位。
法令順守意識の22位、社員の相互尊重59位以外は軒並み最下位に近い。
退職検討理由 を見てみると、給与が低く、求人票通りには働けない。サービス残業も多そうだ。他の項目を見ても上の評価を裏付ける情報が並ぶ。
医療事務にせよ介護にせよ保育士にせよ、そもそも生命保険の営業職員のように大量雇用大量離職モデルの職種ではないはず。問題は待遇面、社員の士気、20代成長環境、人材の長期育成、人事評価の適正感にあることは明白。
財務状況を見てみると、売上も営業利益も増えている。東証一部上場で2016年3月期の有報を見ると3期連続で従業員数1万3千人台(+平均臨時雇用者数1万人台~1万1千人台)で推移。確かにプレスリリースの「2万人以上の社員」は裏付けられている。
新入社員が4割辞めても1万3千人台で推移ということは、中途採用を含めてどんどん雇用してどんどん辞めて、売上も営業利益も増えているけど従業員数は変わらない。仕事は増えて給料は変わらずなんだろう。
上場企業なので目先の業績も大切だけど、もう少し社員に還元しないと。給与もそうだしキャリアパスもそうだし教育もそう。面談が大変とか、AI使って離職を防ぐとか言っている場合じゃないのでは。
自前で介護施設・保育施設を持っている介護事業や保育事業はともかく、医療事務は業務委託・派遣事業。職場がそれぞれの病院ということになると、職場環境の日常のコントロール権が無い。面談まで待っている場合じゃないのでは?
そういう意味では、日報レベルで職場の不満を上げてもらうほうがKIBITのようなスコアリングシステムも生きそうだし、手遅れになる前に手を打てる。
ソラストの生命保険の営業職員のような離職率は、別の解決方法がありそうだ。
ありえないレベルで人を大切にしたら23年連続黒字になった仕組み
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