このようなニュースが。Uberの説明は後でするけど、現在の日本の法律の解釈ではITを使った白タク斡旋サービスである。
市のお知らせに情報がある。
発生しうる問題について、あまり詰めていない感じ。
【質疑応答】(抜粋)
Q1:費用の負担は南砺市?
A1:無償シェアリング交通については基本的にゼロ。タクシー配車についてはPRや告知に係る費用、さらに集めたデータの整理等の費用について予算化を随時検討する。
Q2:市民ドライバーによる無償シェアリング交通でも評価システムは導入するのか?
A2:世界共通のプラットフォームでありシステムの重要な部分、例外にはしない。
Q3:国土交通省への交渉は?
A3:既に複数回、実証実験の内容説明を実施。今後も確実に理解を得ながら進めていくため調整を行い、意義や趣旨について理解を求めていく。
Q4:今後の展開の青写真は?
A4:やれることはすぐにでも開始、実際の運用については各方面での理解を得た段階で出来れば需要が高いと見込まれるゴールデンウィーク頃を目途に出来たらという思い。
Q5:システム導入についてタクシー会社との折衝は?
A5:市内6社にはおおよその内容について説明しているが実際の運用にあたって更に詳細な仕組みを説明、理解・了解を得たうえで契約を結ぶかたちを目指す。
Uberとは何か。https://www.uber.com/ja/だと、もやっとした説明しか無いのでWikipediaから。
Uberは2009年3月にトラビス・カラニックとギャレット・キャンプにより設立。2015年の予約売上は108億4000万ドル(約1兆3000億円)と推定されている。
特徴としては、一般的なタクシーの配車に加え、一般人が自分の空き時間と自家用車を使って他人を運ぶ仕組みを構築している点で、顧客が運転手を評価すると同時に、運転手も顧客を評価する「相互評価」を実施している。世界では、タクシーにおいて「領収書を発行しない」「タクシーメーターを倒さず、法外な料金を請求しボッタクる」といった問題が多く起こっていることから、これらの問題を回避し、さらに車両オーナーにとって「簡単な小遣い稼ぎ」ができる点が受けている。しかし、既存のタクシー業界からの反発も根強く、訴訟や運輸当局から営業禁止命令を受けた国、地域もある。
日本では、2013年11月より台数限定でのトライアルサービスを行い、2014年8月より東京都内全域で本格的にタクシーの配車サービスを開始。2015年2月には、福岡市において諸外国同様に一般人が自家用車で運送サービスを行う「みんなのUber」のテストを開始するが、国土交通省から「自家用車による運送サービスは白タク行為に当たる」として、サービスを中止するよう指導が入り、同年3月にサービスを中止した。
南砺市は上の質疑応答にもあるように、まだ国土交通省と折衝中。Uberで走り出す前に、国土交通省に止められる可能性もある。根拠法は道路運送法。
タクシー事業は道路運送法上の「一般乗用旅客自動車運送事業」である。条文だと抜粋が大変なのでこれもWikipediaから。
事業用自動車を示す緑地に白字(軽自動車のタクシーは黒地に黄字)、3ナンバー又は5ナンバーのナンバープレートがつけられる。自家用自動車を用いて無資格で営業しているものは白タクと呼ばれ、違法である。この呼び方はナンバープレートの色が事業用車のそれに対して白地緑文字であることに由来する。
法律が現状に即していないという事態はよくあること。でも、現状に即していないから違反していいというわけではないので、正面突破ならきちんと法改正に臨むべき。
あと、南砺市って読み方も分からなかった。土地鑑が無いので地図を出してみた。確かに金沢も近く、北陸新幹線の恩恵がありそうではある。3桁国道だけでなく、高速道路もある。
ここまでちょっと長いが、問題はここから。
Uber、富山県で市民ドライバーによる無料送迎の実証実験へ
— Chujiro (@Chujirorx) 2016年2月27日
https://t.co/g5NHhwLN76
本来南砺市が行うべき公共サービスを市民ボランティアが行うということだけど、事故発生時などのリスクは市民ボランティアが負うんだよね。
交通事故がおこった時に、車の持ち主は通常の任意保険の範囲内で解決しようとして、保険会社が調査したらこういう背景が分かって『保険は下りません』となって、将来的に揉める事例が発生する可能性に1000Tポイント。https://t.co/kDO4TR3W4P
— AtsukoOrikasa (@Rutice_jp) 2016年2月27日
ご指摘の通りである。
過失割合はその事故ごとだが、事故は起こるものである。まさか無保険や自賠責保険だけの人間がこの実証実験にドライバーとして応募するとは思えないが、Uberは仲介するだけなので、自動車保険のチェックはしているように見えない。市のお知らせの感じだと、南砺市側がそこを気にしているようにも見えない。
自賠責保険(自動車損害賠償責任保険 - Wikipedia)は、全ての運転者への加入が義務付けられている。購入時や車検の時などに、一緒に契約しているはず。この保険の補償限度額は、1人につき死亡3,000万円、後遺障害4,000万円、傷害120万円。死亡が3,000万、後遺障害4,000万で済む保障が無いので、任意の自動車保険に加入するのが通常。数千万円でも何億円でもポンと払える大金持ちには保険は必要ないが、そうでなければ普通は入る。
以前にベネッセの情報漏えい問題に乗ってコンピュータ・フォレンジックの基本を書いておく - いろいろやってみるにっきに図示したものを再掲するが、リスクマネジメントの観点で言うと、保険の仕組みは下記の「転嫁」である。
任意の自動車保険の加入については、「事故によっては補償額がどうなるか分からない(インパクトが大きい)ので十分な保険に入りましょう」という話である。しかし、補償額が大きい保険契約は当然保険料も高くなる。
今回の実証実験の参加者が、無保険(自賠責保険に加入していないこと)や自賠責だけだと論外だが、任意の自動車保険についても十分な補償額が無い可能性は大いにある。
特にこの話に関係する保険契約は、乗客を対象とする人身傷害保険あるいは搭乗者傷害保険である。たまたま契約更新時期なので手元に満期案内書がある。ほぼ上限の契約内容だったと思うが、こんな感じ。
人の命、これで十分ということは無いんだろうが、保険料が高くなることを嫌がって補償額を絞ることはありうる。こういうページもあるくらいだし。
自動車保険の主な商品構成と、当サイトのおすすめプランを以下に挙げます。
対人賠償保険 : 無制限
対物賠償保険 : 無制限
人身傷害保険 : 3000万円
搭乗者傷害保険 : 不要
車両保険 : 状況によって必要
いざ、事故になったら揉めるだろうな。こういう契約をしている人が実証実験に参加して、過失割合の多い事故で搭乗者が死傷したら。家族しか乗せないならこれでもいいんだけど。
ではタクシーの場合はどうか。
一般にタクシー会社は、一般家庭の自動車保険とは異なる契約を保険会社と結んでいる。
わかりやすいサイトがあったので、そちらを引用しながらご紹介する。
自動車保険の保険証券に「ノンフリート」や「ノンフリート等級」という言葉を見かけると思いますが、ノンフリート契約とはフリートがない契約という意味です。フリートというのは、英語のfleet(艦隊・船団・自動車隊)のことです。
フリート契約とは、車の所有台数が10台を超えている人や企業が結ぶもので、ノンフリート契約よりも保険料が安くなります。所有台数が9台以下の場合はノンフリート契約になりますが、3台以上持っている場合にはセミフリート契約もあります。
自家用車を持っている方は自動車保険の保険証書を眺めて欲しいのだが、多分どこかに「ノンフリート」 という文言があるはず。ネット契約なら必ず10台以上のチェックがある。
フリート契約の場合、特典もあるが縛りもある。
- 10台以上の車を所有している人や企業が対象
- 車検証の所有者・使用者が保険契約者名義になっている車が対象
- リースカーやローンで購入した車でも自ら所有していれば対象となる
- 保険料は保険会社が支払った保険金で決まる
- 契約台数に応じて保険料の割引が受けられる
- 年齢条件や家族限定特約などを付けることができない
保険料は契約する車の所有台数によって変わりますが、最大で80%もの割引になることがあります。新たに車を購入した時でもフリート契約に追加することができます。
フリート契約の保険料は、保険会社が実際に払った保険金との比率で計算されます。多数の事故を起こした年や大きな事故を起こした年の翌年は、保険料が大幅に上がる事があります。逆に事故を起こさなければ翌年の保険料が安くなります。
タクシー会社が事故を起こした場合、保険金の支払いで揉めると、その後の商売に悪影響がある。特に乗客=搭乗者に死傷があった場合。「あそこのタクシーに乗ると、事故の時保険出ねえぞ」みたいな。流しはともかく固定客減るわ。そんなわけで、きちんと補償できる保険に入っているのが通常。まあそれでも色々揉めるんだけどね。相手/相手の保険会社がごねたりするし。
そんなわけで、南砺市が保険会社と交渉してフリート契約すればいいんじゃねとか一瞬思ったのだが、フリートには「車検証の所有者・使用者が保険契約者名義になっている車が対象」という縛りがあるのだった。
ということで南砺市がきちんと事故に対する保険の対応をするとなると、参加ドライバーの保険を全件チェックして一定以上の補償額の契約者に絞るか、キャプティブやファイナイト(FINITE)だな。今回のケースだと、どっちかというとファイナイトかな。
ファイナイトとは | ファイナイト | 損保ジャパン日本興亜
南砺市は、多分キャプティブやファイナイトは知らないと思うけど。
企業のリスクマネジメントとキャプティブの役割 (関西学院大学研究叢書 第 164編)
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といったわけで、南砺市の実証実験は今後も要注目である。