いろいろやってみるにっき

てきとーに生きている奴の日記

古いエントリのサムネイル画像がリンク切れになってたりするけど、チマチマ修正中


続・円高父さん円安父さん

どうあっても≪円安=悪≫じゃなきゃ困る人がいるらしい。それはTDBの中にも?。こんなニュースを見た。

タイトルは前回と同じにした。 

円安関連倒産 調査開始以降2番目の高水準?

記事のトーンは円安で日本経済破綻の勢いである。「高水準」「大幅増」が並ぶ。こういうときは一次ソースに当たらなければ。

第5回「円安関連倒産」の動向調査 | 帝国データバンク[TDB]に要約が、そこにある資料PDFリンクに詳細がある。まずは要約だが以下の通り、円安で倒産が大幅増と書かれている。

  1. 2月の「円安関連倒産」は42件判明し、集計開始の2013年1月以降で、2014年11月と並んで2番目の高水準。年度ベースでは、2014年4月~2015年2月の合計は353件にのぼり、前年同期(161件)に比べて119.3%の大幅増加
  2. 地域別に見ると、2月は「関東」が東京都を中心に18件(構成比42.9%)で最も多い。以下、「中部」(7件)、「北陸」「九州」(4件)、「近畿」(3件)の順となっており、全国各地で判明
  3. 業種別に見ると、2月は「卸売業」が15件(同35.7%)で最も多く、このうち、繊維・衣服・繊維製品卸売と飲食料品卸売がそれぞれ5件。「製造業」が12件(同28.6%)でこれに続いた。他方、原油価格の下落を受け、「運輸業」が3カ月連続の前月比減少
  4. 負債規模別に見ると、2月は「10億円以上50億円未満」が8件(同19.0%)。前月、前年同月を6件(300.0%増)上回り、負債10~20億円台の地場業界大手クラスの倒産が目立つ

そして2月の「円安関連倒産」、調査開始以降2番目の高水準 | マイナビニュースにも引用されているグラフもある。いやグラフはこれしかない。

f:id:shigeo-t:20150307041344p:plain

えーっと。このグラフを見て「調査開始以降2番目の高水準」?。2014年10月39件、11月42件、12月44件、2015年1月34件、2月42件である。確かにこの期間では同件数2位ではあるが、「調査開始以降2番目の高水準」というよりは「高水準続く」だろ。1月が34件と低いのがノイズだけど。それでも2014年9月の31件に近いので「高水準続く」なら言い過ぎでは無い。

2月の「円安関連倒産」、調査開始以降2番目の高水準 | マイナビニュースに引用されていない表も見てみよう。

f:id:shigeo-t:20150307044018p:plain

件数が落ちた2015年1月だが、負債総額では調査開始以降断然トップ。この表内で見れば特異的に大きいとも言える。「円安で倒産が増えて大変だ~」と言いたいなら、件数と負債総額を合わせたグラフにして「高水準続く」とするのが正しいだろう。TDBでこの調査を書いた人、これでGo出した人は「円安で倒産が増えて大変だ~」派だとすればセンス無さすぎるんじゃないの?。PDF末に記名されているんだけどね。通常のレポート以外でわざわざ円安関連倒産動向調査をやっているようなのだが、上からの指示で「円安で倒産が増えて大変だ~(棒読み)」「円安で倒産減ってるじゃん」派がイヤイヤ作らされたとすると、記名で発表したくないレベル。なんだかよくわからない。

ちなみに1月の818.5億円といきなり大きい負債総額、第4回 : 「円安関連倒産」の動向調査 | 帝国データバンク[TDB]には触れられていないが、詳細の資料PDFではしれっと、

1 月 28 日、東証 1 部上場のスカイマーク民事再生法の適用を申請した。申請時点の負債額は 約 710 億 8800 万円にのぼる“超大型倒産”となった。同社が再生法を申し立てた理由は複数ある が、「想定を超える円安の進行、燃料費の高止まり」が、直近業績の著しい悪化を招いたのは事実。

と書かれている。原油安が続く燃料費じゃなくて、A380購入関連(265億円前払いしたけど残りの資金繰りができずエアバス社と揉めてる)と、A330のリース料がドル建てだったことが主原因じゃないの?ユーロ/円ならここのところ円高なのに。

ドル/円のトレンド

今回もドル/円のトレンドを見てみよう。米ドル/円 - FXレート・チャート - Yahoo!ファイナンスにグラフを書かせた。

f:id:shigeo-t:20150307045646p:plain

12月1日に120円台に入った後は、ここ3か月110円台後半~120円台前半で行ったり来たり。ドル高値水準である。先ほどの倒産件数のグラフと相関はありそうである。

本当に円安で倒産は増えているのか?

しかしである。全体の倒産動向との比較が、第5回「円安関連倒産」の動向調査 | 帝国データバンク[TDB]の要約には無い。資料PDFリンクの詳細には一言触れただけで終わっている。

全体の倒産件数は減少基調が続くなか、2 月の「円安関連倒産」は再び増加に転じた。

同じTDBから全体の動向を見てみよう。2月報はまだ出ていないので、3月7日現在の最新である全国企業倒産集計2015年1月報 | 帝国データバンク[TDB]を見てみる。

f:id:shigeo-t:20150307052019p:plain

件数と負債総額を合わせたグラフ書けるじゃないですか、TDBさん。いやそれどころではない。大きなトレンドで見れば、倒産件数も負債総額も右肩下がりである。さらに言えば倒産件数や負債総額の桁が違う。

円安で倒産が減ってるから「円安関連倒産」という無理矢理なカテゴライズなんだろうな。円安で倒産は減っている。

では「円安で倒産が増えて大変だ~」ならどう調査レポートを書くべきか

同じ2015年1月で比較すると、全体708件に対し円安関連は34件である。4.8%に過ぎない。負債総額は全体1,601億円に対し円安関連は818.5億円で51%と大きいのだが。ちなみにスカイマークの710.9億円を抜くと6.7%になる。

2015年1月は少し円安関連倒産が少なかったので、2014年12月で比較してみると、全体647件に対し、円安関連は44件。6.8%である。負債総額は全体が1,792億円に対して円安関連倒産は14.2%である。

いずれの月も倒産件数の比率よりは負債総額の比率が大きい。「円安で倒産が増えて大変だ~」派が円安関連倒産について書くなら、

負債総額の占める割合が大きいことを書くべき。

どの数字を使うかはセンスではなくテクニック

業績にせよ事業企画にせよ、マネージャになれば上司・経営者・出資者などに報告が必要。 今回は「円安で倒産が増えて大変だ~」と言いたいレポートなのに、そういうレポートになっていなくって笑ってしまった。単に「円安関連倒産」とトリミングして増えた増えたと言っているだけ。

ちょっと数字を見比べただけのオレにも簡単に指摘できるのは、どの数字を使うかはセンスじゃなくてテクニックだから。上では第5回「円安関連倒産」の動向調査 | 帝国データバンク[TDB]書いた人はセンス無いって書いたけど、テクニックも無い。多分普通の業績報告でも、自分に都合のよい数字だけを使ったトリミングだけでは、「全体と比べてどうなんだ」と指摘が入る。どうせ指摘されるならうまく使おう。

 

研究関係で言語処理(形態素分析テキストマイニング)をやりそうなので、手に入れたけどまだ読めてない(´・ω・`) 

言語研究のための統計入門

言語研究のための統計入門

 
お時間あったら、他のエントリもクリックして頂ければ幸いです。