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てきとーに生きている奴の日記

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『「ライブマイグレーション申請書」って何デスカ? - ITmedia エンタープライズ』で昔の苦労を思い出した

下記の記事を見て思い出したので昔話から入る。2005~2006年当時の話である。まだ「クラウド」という単語が無い時分、クラウド商売を始めていた。いや、実装レベルからいえばまだまだクラウドの定義を満たせず、VPS(virtual private server)というレベルであった。

脱線するけどクラウドの定義はNIST(アメリカ国立標準技術研究所)が下記のように定めている。自分たちがビジネスを始めた段階では一番下の5つの特徴を全ては実現できていなかった。

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実装レベルがVPSとはいえ、OSもミドルウェアも全部月額で提供したいということで、各ミドルウェアベンダーと交渉していた。

Microsoftについては2005~2006年当時からSPLAが適用できていたので、MicrosoftのサーバOS、ミドルウェアについてサブスクリプションモデルで提供できた。SPLAはServices Provider License Agreementというライセンス体系で、サービスプロバイダが1ヶ月単位でライセンスを提供できる形態である。この「1ヶ月単位でライセンスを提供できる形態」などをサブスクリプションモデルと呼ぶ。仮想化で使える範囲、解釈についてきちんとMicrosoftに確認しながらではあったが、まあ基本的にはSPLAの対象となっているOS,ミドルウェアについては提供可能であった。

クライアントOSはSPLAに含まれないので提供について交渉したが、「クライアントOSはOEMビジネス(PCメーカーからのバンドル)がメインなのでSPLA対象としない。交渉したいならビジネスのボリュームの桁が違う」と敗退した。オレが「Windows Server 2003 R2は一番優れたWindows XP」と呼ぶのは、交渉に完全敗退したMicrosoft(当時は新宿)からの帰り道、日本上陸したばかりで大行列になっているクリスピー・クリーム・ドーナツの前で大行列を横目に見ながら「クリスピー・クリーム・ドーナツ買えないならケーキを買えばいいじゃない」と思い、その時「Windows XPが売れないならWindows Server 2003 R2を売ればいいじゃない」とマリーアントワネット方式を思いついたことが発端である。一緒に交渉に行っていた部下の人のT君に、新宿駅に着く前にその考えを言ったら絶句してたw。そりゃそうだ。普通の人はちょっとした開発や動作確認などは、手元のPCのクライアントOSをサーバOSの代わりに使えないかなとは考えても、サーバOSをクライアントOSとして使おうとは思わない。普通に買えば価格差的にもありえない。まあSPLAならではなんだが。帰ってから上司に惨敗した旨とマリーアントワネット方式を話したら即Goが出た。オレよりも頭いい人なんで、すぐ理解できたらしい。

実際問題、クライアント用にチューニングしたWindows Server 2003 R2Windows XPよりも軽く安定的なよいOSで、一部アプリのインストーラがOSを見てインストールしてくれない問題を除くとほとんど問題は無かった。

 

脱線したので話を戻す。というか、ようやく上の「マイグレーション申請書」の話に近づく。

問題はその他のベンダである。当時はまだライセンス的に、仮想化もサブスクリプションもあまり考慮されていなかった。どうしても物理サーバ単位やCPU単位、コア単位という形で買い取って利用者に提供するという事になる。サブスクリプションモデルが適用できるベンダについても、上記の「買い取って」の部分が月額に変わるだけで、物理サーバ単位やCPU単位、コア単位という形は変わらなかった。

http://www.flickr.com/photos/81126501@N00/4403152760

photo by mayhem

交渉の結果一応提供可能となったのだが、この方式はやっかいな問題が発生する。

豪快に全物理サーバ分買えればいいのだが、それでは赤字垂れ流しで商売にならない。通常、物理サーバ単位やCPU単位、コア単位のライセンスの場合、動作させる物理サーバは固定である。どの物理サーバでもいいから1台分とか、そういうライセンス体系ではない。そのため、例えば1仮想マシン分のあるミドルウェアが売れたとして、仮に10台保有する物理サーバ分の買い取りやサブスクリプション費用の負担では割に合わない。2台分買ってライブマイグレーションの範囲を限定するか、買うのは1台分にして当該仮想マシンはライブマイグレーションしないように設定しないと、ライブマイグレーションが発生した瞬間にライセンス違反である。しかもライブマイグレーションが発生しても、OSとミドルウェアの関係は全く変わらないので、当該ミドルウェアや当該ミドルウェアベンダのライセンス管理ソフトはライセンス違反を検知できない。

そこで実際には1ライセンス分しか利用者がいなくても2物理サーバ分仕入れて、ライブマイグレーション範囲を限定することで対応することにした。商売なので一応可用性はSLAで謳う必要があるわけだが、「特定のミドルウェアを使うとSLAが劣化します」などという商売は難しい。ミドルウェアライセンス費用の余分な一台分の負担は、SLAを統一するためのコストと考えることにしたわけである。あとは頑張って有償利用者を増やせという話である。

 

ということで我々はサービスプロバイダとして2物理サーバ分仕入れてビジネスを開始したわけであるが、オンプレミスの場合は可用性よりもまずはコストであろう。ましてやコスト削減のための仮想化なら、なおさら最小限のライセンス購入に抑えたいだろう。

1ページの記事なので短いのだが、ちょっと引用してみる。

昨今のパフォーマンスの高い物理サーバをそのまま使うとリソースが余るために、サーバ仮想化を用いて分割する。そこで切り出した仮想マシンは、小分けにされた“サーバマシン”ととらえていました。サーバであるがゆえ、物理サーバと同じく帳簿管理が必要となるという考え方です。

筆者は笑い話として捉えたようだが、物理サーバを売る側や全物理サーバ分ライセンスを買ってもらえるハイパーバイザー側の人はお気楽である。企業側は買わなければ使えないわけだし。

10年前よりもライセンス体系は進化していて、仮想マシン単位の購入で済むものが増えているはずだが、もしかするとオレの経験したようなミドルウェアは全物理サーバ分ライセンスを買えないという事情も皆無ではないはず。単純に笑い話とするのは危ない。

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クラウド化する世界

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