いろいろやってみるにっき

てきとーに生きている奴の日記

古いエントリのサムネイル画像がリンク切れになってたりするけど、チマチマ修正中


AIに書かせる議事録、人間が議事録を書く意味

TwitterのTLに流れてきた

 経由で

を読んだ。要約すると、AIで仕事がなくなっちゃう!というよくある誤解 - shi3zの長文日記のほうは、

「AIによってクリエイティブな仕事は奪われるのではなく、より楽しくなる」

AIで仕事がなくなっちゃう!というよくある誤解 - shi3zの長文日記

であり、AIで仕事がなくなっちゃう!という誤解の誤解 - セカイノカタチのほうは、

「人は皆、クリエイティブなわけではない」「未来の仕事の総量」

AIで仕事がなくなっちゃう!という誤解の誤解 - セカイノカタチ

の2つの問題が起きるという内容である。日本の場合は少子高齢化で労働力不足が予想されているので「仕事の総量」が減ることは望ましいことかもしれない。また、これまでの様々な機械化で仕事が減ったのかどうかというと、逆に増えたのではないか、それまで手付かずの部分が産業化されたのではないかとも考えられる。例えば自動車や鉄道、機関で動く船舶ができる以前は人やモノの移動は人力や動物、風などを使用する限定的なものだったが、自動車や鉄道などにより「流通」という産業が起き、「流通」に乗って様々なモノが移動することで他の産業も隆盛した。AIによってもこのようなことが起きるとも考えられる。それが必ずしもクリエイティブサイドに寄ったものとは限らない。

 

で、オレはビジネス的には機械学習をベースとしたものを開発中で、まああれこれ考える部分はあるし、AIにできることできないことも知ってはいるが、その話はまた別途。

 

タイトル通り、議事録作成について書きたい。AIで仕事がなくなっちゃう!というよくある誤解 - shi3zの長文日記で議事録について書かれていたので。少し長いが引用する。

それで、たいていの場合、「自動化したい」仕事というのは、極めて非人間的な仕事なんです。
 たとえば議事録。

 今でも、信じられないくらいに多くの会社が、ほとんど全ての会議で、議事録をとる係を決めています。
 しかし議事録は、とるのも大変ですが、読むのも大変です。

 議事録が役に立つのは、あとで揉めて喧嘩になったときくらいです。
 こういうのはエヴィデンスとして残す必要があるものの、きほんてきには発言が網羅されていれば誰が書いてもいい類のものです。

 その割には、その案件に詳しくなかったり、専門用語がわからなかったりすると正しく議事録が書けずトンチンカンなことになったりしてしまいます。


 だから議事録を書くのは新入社員のOJT的な意味合いがあったりするのですが、そんなに毎年新入社員が入ってくる会社ばかりでもないので、ひたすら議事録を書くのが仕事という人が必ず一定数存在します。

 その人は議事録をまとめるのが主な仕事であり、それが知的な作業だと信じています。確かに知的作業であることは間違いないですし、それをきちんとやりとげるのに相応の知的レベルが必要なことはわかります。しかし、当然、ちゃんとした議事録が書ける人というのは頭が良くて能力が高いわけです。

 ところが頭が良くて能力が高い、すなわち給料も高い人が議事録を書くというのは、たいへんな損失です。本来はその議事に積極的に参加すべき人が、議事録を書くという仕事にとられているわけです。

 誰かが書かなければならないので議事録を書く人が必要なわけです。当事者が議事録を書くケースもありますが、実際にやるとわかりますけどどうしても自分でまとめながらしゃべるというのはかなり至難の業です。

 当事者が議事録を書くのが効率的ならば、国の会議は全部議事録を当事者が書くようになるはずですが、国の会議では議事録は官僚が書きます。たぶん公務員の中で最も給料が高い部類の霞が関高級官僚の能力が、全ての会議で少なくとも一人か2人は議事録をまとめるために使われているのです。

 もし仮にAIによって議事録を書くことが自動化されたらどうでしょうか。

 

国語研日本語ウェブコーパスが公開された。


議会の議事録ってどんな感じかを日本語ウェブコーパスで検索してみる。検索文字列は「議事」にした。

f:id:shigeo-t:20170309030931p:plain

見て一発でわかるように、発言した話し言葉そのまま書かれている。公的な議会の場合、”誰が何を言ったか”に意味があるため、このようなまとめ方になる。

 

そういう意味では、

 議事録が役に立つのは、あとで揉めて喧嘩になったときくらいです。
 こういうのはエヴィデンスとして残す必要があるものの、きほんてきには発言が網羅されていれば誰が書いてもいい類のものです。

AIで仕事がなくなっちゃう!というよくある誤解 - shi3zの長文日記

という理解はある意味正しい。

 

ところが、一般の企業で作成する社内の議事録や、他企業との議事録はそうではないはず。全発言集の議事録はほとんど用いられず作成もされないはず。Wikipediaから引用する。

議事の内容の記録形式は大きく分けると次の2通りである。

  • 録音または速記した話し言葉をほぼそのまま文字に書き起こしたもの。演劇の台本のように、会議の出席者の発言が時系列に沿って並ぶ。例は日本の国会会議録[3]、日本の内閣の閣議の議事録[4]。
  • 会議中に録音・メモ・記憶した内容に基づいて、議事を整理の上、書き言葉を使ってまとめたもの。記述の順序は必ずしも発言の時系列と一致しない。箇条書きや略記により簡潔にまとめることがある。例は日本銀行政策委員会金融政策決定会合の「主な意見」と「議事要旨」

議事録 - Wikipedia

国会や地方議会などでは話し言葉をそのまま書き起こしたものだが、企業などで使用されるものは2つめの「議事を整理の上、書き言葉を使ってまとめたもの」のはず。

 

AIで仕事がなくなっちゃう!というよくある誤解 - shi3zの長文日記ではshi3z氏が議事録作成から遠ざかっているためかと思うが、Wikipediaから引用の上記2点をごちゃごちゃに理解していると思われる。

新人のOJTとしては「議事を整理の上、書き言葉を使ってまとめた」議事録の作成。ここに新人が入らないことで、頭が良くて能力が高い人に担当させることになるのはもったいない。とはいえ、新人に書かせてもどうせそのままでは使えないので、審査者・承認者が直しを入れるんだけど。あと、発言が網羅されているかどうかは割とどうでもいい。議事を整理の上、カットするということはごく当たり前。

 

一方、例えば国会の場合は全発言なので、高級官僚が一からやるわけでなく、速記者や全録音からの書き起こしということでスタッフが書き起こす。まあ、そもそも議事録担当の官僚は、議事録担当でありその議事の発言者じゃないしな、国会の仕組み上。他の会議体なども同様。

 

しかし、養成所は衆参ともに平成18年度で廃止され、会議録作成も新方式に切り替えられた。参院は20年1月から審議をモニターに中継し、担当職員が音声と映像を見ながらパソコンで入力する仕組みに変更。衆院では23年4月に音声を自動的に文字化する「音声認識システム」を導入した。現在では両院とも手書き方式は、本会議や予算委員会など速報性が求められる会議に限られている。

 

 全国の地方議会でも、両院の養成所廃止で人材確保が難しくなったことなどから、22年度までに24都道府県議会で手書き速記は廃止された。近畿では兵庫県議会が23年6月議会から廃止し、録音した音声データを外部業者に委託して書き起こしている。議会事務局の担当者は「手書き速記に比べて記録の精度が落ちることもなく、問題はない」という。

 

そこでAIに議事録を書かせる話だが、全発言なら割とできそうな気はする。音声認識の精度(専門用語など)や発言者の発音の問題もあるので、完全自動というわけにはいかないだろうが、少しの直しで問題ないだろう。文字データになっていれば、議事録フォーマットに落とし込むのはAIというほどのものじゃなくてもできる。

まあ国会の「音声認識システム」がヤジなどの不規則発言をどうやってカットしているのかは気になる。国会中継見ているとヤジひどいもんな。

http://1.bp.blogspot.com/-ajT1MW2Qta4/WCqd2xm7ImI/AAAAAAAA_ow/zcXqI75YVmYNmOWgV0LqucmW2hfHEXKOgCLcB/s800/kokkai_touben_shingi_man.png

 

 

一方、「議事を整理の上、書き言葉を使ってまとめた」議事録の場合、AIに書かせてもいいけど、それでは議事録を書く意味の裏のテーマを見落としている。AIで作成するとしても整理して要約するなどは高度なAIが必要になる。

決算記事のように「各社の決算短信」+「決算記事」テンプレート+記事に抜き出すポイント→決算記事という単純なものが現時点のAIの状況である。決算短信そのものがテンプレートに沿って書かれるので、割と対応しやすい。

記事のAI化という分野では、天気予報やスポーツ記事などもAI化しやすい分野だと思う。

 

一方議事録は、参加者だけが見るものではない。ごく身内のミーティングの議事録はどうでもいいが、基本的には社内の会議でも複数の部門・部署などからそれぞれの立場を背負って出席、発言する。複数会社間の会議でもそうである。出席していない上位者が、議事録を見て様々なディシジョンをする場合もある。

 

その時、議事録は会議が終わった後の動きをコントロールする情報源である。何が決定事項なのか、なにがペンディングなのか、なぜそのように決まったのか(決まらなかったのか)、などが凝縮されている。議会の議事録作成者は基本的に中立者だが、企業などの議事録では中立者ではなく、なんらかの立場に寄った出席者が議事録を作成することになる。

 

つまり、

議事録が役に立つのは、あとで揉めて喧嘩になったときくらいです。
 こういうのはエヴィデンスとして残す必要があるものの、きほんてきには発言が網羅されていれば誰が書いてもいい類のものです。

AIで仕事がなくなっちゃう!というよくある誤解 - shi3zの長文日記

という認識は善人過ぎる。「あとで揉めて喧嘩になったとき」じゃなく、会議終了後の状況をコントロールするための武器である。

そのため、会議終了後の状況をコントロールしたいときは、積極的に議事録作成を買って出る。他の関係者から承認を得られる内容で議事録を作成しつつ、表現方法や書く順序など色々細工できる。例えば、会議の中では少し押されたなという決定事項部分を、挽回できるニュアンスの表記にするとか。人が悪いと言われれば全く否定できないww

 

人間が議事録を書く意味はここにある。引用した2ブログでも書かれている「クリエイティブ」な仕事である。他の関係者から承認を得られる内容で議事録を作成しつつ、自分に有利な内容に会議の結果を上書きする。クリエイティビティに欠ける人には不可能w。ましてやAIでそこまでやれない。

 

議事録作成の実務と実践

議事録作成の実務と実践

  • 作者: 早川将和,稲垣裕行,西岡祐輔,鈴木龍介
  • 出版社/メーカー: レクシスネクシス・ジャパン
  • 発売日: 2016/05/31
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る
 

 そういう意味では議事録って面白いよ。ファシリテーターとして会議をコントロールする方法もあるけど、議事録作成者として会議をコントロールする方法もある。 

お時間あったら、他のエントリもクリックして頂ければ幸いです。