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『日本のIT業界に未来はあるのか:クラウドが儲からないという真実 - ITmedia エンタープライズ』について

一昨日ポチったやつ、クロネコで配達中になっている(挨拶)。 

 

下記の記事を読んで思うところがあるのでちょっと書く。

アナリスト・金谷敏尊が斬る! 日本のIT業界に未来はあるのか:【第2回】クラウドが儲からないという真実 (1/2) - ITmedia エンタープライズ

 

記事の「クラウドは儲からない」要素とする指摘内容は、ほぼ同意できる内容なので、反論というよりも「(元)中の人」として書いてみたい。

どのように中の人だったかというと、最初の所属企業ではクラウドという言葉が無い時期にIaaSを立ち上げ、謎の転籍をした後の企業でDaaSを立ち上げた。もちろん成功したといえるレベルまで達しなかったので、正確に表現しておくと「成功しなかった(元)中の人」。もちろんビジネスとしては立ち上げはできたわけで、ビジネスの立ち上げまでは成功しているが、目標とするビジネス規模までは達しなかったという意味で「成功しなかった」。所属企業はITベンダというよりはSIer、いずれもコンピュータのハードウェア製造はしていない企業。

 

まず元記事でクラウドサービス事業が儲からない5つの理由(出典:ITR)として挙げている図を引用する。

挙げられている項目はいずれも経験した。記事の内容もほぼ同意できる。ではなんで一言書いておこうと思ったか。 元記事の最後のセクションは「ベンダーがとるべきクラウド戦略」となっているが、ここは「成功しなかった(元)中の人」としては意見を言いたい。

 

まず大枠で言えば自社ハード・ソフトを売りたいITベンダーや、その販社となっているSIerクラウドを自前で持つのはビジネスモデル的に無理がある。欧米まで見ても自社に売りたいハードウェア・ソフトウェアを持つ企業のクラウド、ビジネス的に成功というレベルに達しているものはほとんど無い。ほとんど無いと書いたが、無理にでも挙げろと言われると困るレベル。

 

なぜ成功しないのか?カニバっているとか営業のやる気が出ないというのはまあそうではあるのだが、逆から見てみよう。クラウドを買う側の論理。どういう目的でクラウドを使うのか。サーバ購入費用/運用費用の低減が第一であろう。それまではリースで購入していたサーバ、リース会計が変わって所有権移転外ファイナンスリースもオンバランス。レンタルサーバはそれなりに高い。セットアップ全て自前、運用も全て自前で費用を持つサーバ購入やレンタルサーバと比べて、セットアップは途中まで済んでいて運用も付いているクラウドは悪い選択ではない。しかも資産計上無し。

 

そういう割り切りで選択する企業からすれば、LinuxWindowsさえ動けばサーバのベンダかとかは関係ない。SLAを満たしてくれればいい。稟議書を上げるとき、ハードウェア購入なら「IBM(ここに来る社名はお好きに)だから高信頼で比較対象と比較してTCOに優れます」みたいに、それまでのベンダやSIerとの付き合いとかをベースに、何かあった時に自分の責任を問われにくい選択をしていた。クラウドだとこれまでの付き合いよりも、SLAと費用のバランスがいいほうが稟議書の通りがよさそう。なんといっても稟議書を見て判を押すエラい人は「クラウドは安い」って思っているんだから。

 

ITベンダやSIerからすると、今までは顧客企業でIT投資がある際、営業活動でコンペ無しで自社に発注してもらうように顧客企業内を調整してしまうとか、コンペがあるとしてもスペックインしたり情報をリークしてもらったり決定権者や近いところを事前に掴んでおいたりということをしてきた。コンペを100m走に例えると、単に声が掛かっただけのベンダがきちんと100m走るところを、付き合いの深いベンダはその付き合いの深さによって70m走だったり50m走だったりする。ひどいときには本選かと思って参加したら予選ありで、しかも最初から予選通過者を設定していない予選の参加者だったりする。

ITベンダやSIerの営業って「できますできます」で仕事を取っていると誤解されているけど、大手同士(ITベンダ・SIerと顧客企業間)の付き合いの場合、営業は意外と顧客内の組織・人間関係を把握して動いているし、顧客企業の部門間・エラい人の間の利害調整をして自社に利益を誘導する動きをしている。「こっちに{振る|聞く|頼る}なよ、自社内で調整しろよ」とか言いながら。ところが「クラウドは安い」って思っているエラい人を相手にするとなるとルールがこれまでと違う。値段の桁が合わない場合、営業の頑張りではどうしようもない。別案件で埋め合わせみたいなこともできない。

 

かと言って「高価」な「高信頼クラウド」という発想はどうだろうか。必要性はある。必要性はあるのだが、それが売れるかどうかは別。付加価値が高ければ高いほど、プライベートクラウド比べて安ければ売れる、という単純なものでもない。

 

オレの意見としては、ITベンダやSIerクラウドサービスは「成功しないビジネス」として位置づけられるべきと考えている。売り物の一つとして持っていてもいいし、事業ポートフォリオの一つの核としていてもいいけど、成功はしないビジネスとして位置づけられているという状態が理想。ビジネスとしてやる以上成功するには越したことはないが、『クラウドサービスは事業の柱です』とか本気で経営陣が株主に説明するようではアタマワルイ。

なぜか?クラウドを売るというビジネスはやはりITベンダー、SIerには難しい。予算管理上、現在の期ごとの売上を重視する予実算管理はサブスクリプションモデルの販売にはそぐわない。それに売り切る商品をサブスクリプションでも売るのは、開発費用・製造費用の回収の観点から言っても問題である。はっきり言えば、キャッシュフローを悪化させるだけなので、事業規模がそのキャッシュフロー悪化を補えるほど大きくできなければ成功は望めない。

「成功しないビジネス」として持っていてもよい理由は簡単で、やはり自社でクラウドを構築・運用・運営することで蓄積できるノウハウもあるし、「お前のところはクラウド持ってないのか」と言われた時に提案できる商品は必要。

 

ではITベンダやSIerクラウドビジネスとはどうあるべきか。鵜飼の鵜であるよりも鵜飼になったほうがいいのではないかと思う。クラウドを構成するハードウェア、ソフトウェアの調達・供給能力を持ち、クラウド構築技術を持ち、ハイブリッドクラウド構成技術を持つ、そういうビジネスモデルを描きたい。オレはすでに外の人ですけど。

2つ目に立ち上げたクラウドサービスもそういう目論見で作ったもの。成功まではもっていけなかったけど。純粋に力不足。足を引っ張るやつらを弾き飛ばすことができずに弾き飛ばされたw。ビジネスモデルを理解できず足を引っ張り、かと言って超えるビジネスモデルを描くこともできないようなやつらとは、一緒にやっても成功しないので逃亡したんだけど。

話を戻す。ITベンダにせよSIerにせよ売りたいハードウェアやソフトウェア、構築技術を持っている。それを従来の顧客企業に売れば単にプライベートクラウドの構築案件だけど、キャリアやデータセンタ事業者、クラウド事業者のように元からストックビジネスをするために作られた企業に売る方がフロービジネスとしては正しい。両立しようとするから無理がある。

そして一般的な顧客企業に対しては、ハイブリッドクラウド構成技術を提供していくべき。どこのクラウドであっても繋ぎ合わせてしまう。一般的には企業内のシステムはシームレスにつながっているべきものであり、AシステムはXクラウド、BシステムはYクラウド、Cシステムは自社内クラウドだからうまく連携しませんみたいな話は許されない。そしてBCPやリソースの平準化、最適化ということを考えれば、ハイブリッド化して利用するようになる方向性だろう。そこをクラウドビジネスの核に据えるというのはどうだろう。自社のなかなか安くできないクラウドを値下げして売るよりも、安い複数のクラウドを束ねるとかリセールするとかなら、ROAを悪化させることなくクラウドビジネスができる。

 

確かにストックビジネスは魅力なんだけどね。でも両立できないとも思うんだよね、大きく体質を変えない限り。役員総入替級の。

 

そもそもストックビジネスの成功者は、大投資してちまちま回収を成功させている。少なくとも国内の場合、ITベンダやSIerクラウドサービスを担当している担当役員で、自分の首を掛けて大投資するほどの胆力がある人間なんていないから、成功しているITベンダやSIerクラウドが存在しないという側面もある。SIerなんて自前の投資をほぼせずにビジネスを伸ばしてきているわけで、そういう文化の中で育った担当役員だと、投資して回収しろって口では言っても投資をケチる。回収できなかったら自分の首が飛ぶわけだし。GoogleやAmzonみたいにドンと行けば成功する可能性も出てくるけど、投資をケチっているうちは大失敗は無い代わりに成功も無い。後発のくせにプライスリーダーになれないわけで。

 

あ、クロネコきたー。ということでおしまい。

 

昨日発掘。真面目な顔なのにこのおなか。吹いた。ちょうど5年前の写真。

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